短編小説
まるでかみ合っていないことにも気が付かず、上機嫌の上澄みだけが共有される。かといえば一瞬だけ成立していたり。こんなシチュエーションでなくてもありそうで怖い。 レイモンド・カーヴァー「アラスカに何があるというのか?」 (What's In Alaska ? by Ra…
いつまでも変わらない、変えられない習慣。背負ってきたものを降ろすときの決断はいつでも不安とためらいと共にある。 レイモンド・カーヴァー「60エーカー」 (Sixty Acres by Raymond Carver) 行かずに済ませることができたらな、ともう一度考えながらトラ…
行き場所がないのは誰だ。怯えているのは誰だ。追い立てているのは誰だ。本当にそうなのか。 レイモンド・カーヴァー「サマー・スティールヘッド(夏にじます)」 (Nobody Said Anything by Raymond Carver) 「どこにも行きゃしないさ。行き場所がないんだよ…
父親の不在、無個性、消失が際立つ。そこにいるのにそこにはいない。 レイモンド・カーヴァー「父親」 (The Father by Raymond Carver) 「赤ん坊は誰に似ているかしら?」 「誰にも似てないわ」とフィリスは言った。みんなはもっと顔を近づけて見た。 「わか…
話を続けてしまったのが運のつき。魔が差したと言うのでしょう。 レイモンド・カーヴァー「あなたお医者さま?」 (Are You A Doctor ? by Raymond Carver) 「あたなって優しい方なのね」と女が言った。 「私が? ま、そう言っていただけるのは嬉しいですがね…
なんにでも応用できそうなタイトル。「そいつらはお前の友達じゃない」「そいつらはお前の仲間じゃない」恋人じゃ、上司じゃ、同僚じゃ・・・。立派な理由になっているようで、なっていない感じです。亭主だからなんなのさ、って。レイモンド・カーヴァー「…
これまた覗きの誘惑。罪悪感はあまり感じてはいなそう。ばれていないと思っている彼らを、読者が覗いている。こんな手の込んだことは「人が考えつく」以外にはない、ってことかしら。蟻の話はどういう意味を持っているのだろう。レイモンド・カーヴァー「人…
他人の私生活を覗き見るうしろめたい誘惑。ちょっとしたいたずら心なのかもしれないけれど、いたずら心とひとくくりにできない思いを感じるのはうがちすぎでしょうか。 レイモンド・カーヴァー「隣人」 (Neighbors by Raymond Carver) それから彼女はこう言…
フィジカルな変化、メンタルな変化。兆候はその僅かさゆえにどちらとも区別がつかない。 レイモンド・カーヴァー「でぶ」 (Fat by Raymond Carver) 私はスペッシャルを太った男の前に置く。チョコレート・シロップを添えたヴァニラ・アイスクリームの大きな…
バースデイ・ストーリーズ (村上春樹翻訳ライブラリー)作者: 村上春樹出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2006/01メディア: 新書購入: 2人 クリック: 14回この商品を含むブログ (51件) を見る誕生日をめぐる短編を13篇集めたアンソロジー集。誕生日だか…
ディヴィッド・リンチの映画に出てくるような現実とは少しずれた場所を思い起こされる。ここではないどこか。赤いビロードのカーテンに囲まれた赤い部屋、古ぼけた劇場の緞帳の前。けれど嫌な感じはしない。むしろ、すっきりするような。 村上春樹「バースデ…
補助車輪はいつの間にかはずせるようになっている。それがもう必要ないことに、いつ、気が付くかどうか。 ルイス・ロビンソン「ライド」(RIDE by Lewis Robinson) 父親は腕時計に目をやり、夜中の十二時を過ぎて日にちが変わると、派手にエアホーンを鳴らす…
漂白したような清涼感。少し白すぎる気はするけれども。 クレア・キーガン「波打ち際の近くで」(CLOSE TO THE WATER'S EDGE by Claire Keegan) 「あと一時間だ、マーシー。それだけしかない」と彼は言った。「一時間たって戻ってこなかったら、置いていく。…
読後、ものすごく引っかかりが心に残る。それから何故「風呂」なんだろう。この作品のロング・バージョン「ささやかだけれど、役にたつこと」も読みたい。レイモンド・カーヴァー「風呂」(THE BATH by Raymond Carver) 男は病院から車を運転して帰宅した。彼…
こういう願望というか関係ってちょっとねじれてるんじゃないかなぁ。こわこわ。アンドレア・リー「バースデイ・プレゼント」(THE BIRTHDAY PRESENT) 再び電話のベルが鳴る。彼女は少しためらってから受話器を取る。 ロベルトだ。「ああ、君は家にいるってわ…
誕生日に起きたちょっとした?アクシデント。おばあちゃん、お茶目です。イーサン・ケイニン「慈愛の天使、怒りの天使」(ANGEL OF MERCY, ANGEL OF WRATH by Ethan Canin) エリスナー・ブラックの七十一歳の誕生日に、鳥の群れが窓から台所に飛び込んできた…
世界が、視野が、自分自身が広がっていく瞬間。きっと、こんな精神的脱皮を何度も繰り返して、人は子供から遠くなっていくのでしょう。 デイヴィッド・フォスター・ウォレス「永遠に頭上に」(FOREVER OVERHEAD by David Foster Wallace) 誕生日おめでとう。…
ポール・セロー「ダイス・ゲーム」(A GAME OF DICE by PaulTheroux) 当地ではバーの客たちは次のおかわりを誰が払うかを賭けてそれを転がすのだ。私はダイスを振るときに男たちが顔に浮かべるひどく真剣な表情や、むき出しになった歯を目にして、しばしば思…
ロバートもかわいらしいけれども、三人のおばあさんたちもまたかわいらしい。 リンダ・セクソン「皮膚のない皇帝」(TURNING by Lynda Sexson) 三人の老婦人が、その長い首に宝石をエレガントに光らせ、お互いの手を取りあって、タクシーからよろよろと降りて…
最後の1センテンスというものは、どの作品でも一番印象に残りやすい。ある景色を目指して一段ずつ上ってきた階段の一番上にたどりついた喜びだとかその眺望だとかそこまでの余韻みたいなものが凝縮されている。その最後の1センテンスを引用したいところで…
ウィリアム・トレヴァー「ティモシーの誕生日」(TIMOTHY'S BIRTHDAY) 彼女は小さく微笑んだ。そこにあるものを受け入れるしかない。気に病んでもしかたないのだ。彼らは傷つけられたが、それはそうなるべく意図されたことだった。彼らのうち一人が失望し、拒…
ジョンソンは迫力のある優れた作家だが、どう考えても万人向けの作家とは言えない。作品にはかなり力加減のムラがあり、野球のピッチャーでいえば、いいときはめっぽういいんだけど、行き先はボールに聞いてくれ、みたいなところがあり、(略) 作品の頭に村…
振り返ると読書の時間がすっかり減ってしまった。短い作品ならば毎日とはいかずとも読めるだろう。と、梅田望夫さんのエントリ([短編小説]記事一覧 - My Life Between Silicon Valley and Japan)の真似をして記録を残していきたいと思う。印象に残った文章を…