今日の短編(16) レイモンド・カーヴァー「人の考えつくこと」

これまた覗きの誘惑。罪悪感はあまり感じてはいなそう。ばれていないと思っている彼らを、読者が覗いている。こんな手の込んだことは「人が考えつく」以外にはない、ってことかしら。蟻の話はどういう意味を持っているのだろう。

レイモンド・カーヴァー「人の考えつくこと」 (The Idea by Raymond Carver)

皿の上の残飯をごみ箱に捨てているときに私は蟻の姿を目にした。私は顔を近づけてみた。蟻たちは流し台のパイプの下のどこかから上がってくるようだった。彼らは列をなしていた。ごみ箱の一方の側から蟻たちは登ってきて、もう一方の側から降りていった。上りと下りだ。私は引き出しの中からスプレイを出して、ごみ箱の中と外にそれらを吹きかけた。流し台の下の、手が届くかぎり奥のほうにも吹きかけた。それから手を洗い、最後にもう一度ぐるりと台所の中を見回した。

頼むから静かにしてくれ〈1〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

頼むから静かにしてくれ〈1〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

所収。