今日の短編(3) ウィリアム・トレヴァー「ティモシーの誕生日」

ウィリアム・トレヴァー「ティモシーの誕生日」(TIMOTHY'S BIRTHDAY)

彼女は小さく微笑んだ。そこにあるものを受け入れるしかない。気に病んでもしかたないのだ。彼らは傷つけられたが、それはそうなるべく意図されたことだった。彼らのうち一人が失望し、拒絶し続けていたことで罰を受けたのだ。復讐を心に抱くとき、そこに公正さの入り込む余地はない。シャーロットは昼食の皿を洗っているときにふとそう思ったし、オドは居間の片づけをしながら同じように思った。「すまなかった」、彼は使われなかったナイフとフォークを持って台所に戻り、そういった。振り向きもせず、シャーロットは首を振った。

庭を歩いてまわるあいだ、息子の話は持ち出されなかった。庭はすでに二人の手には負えなくなっていたし、あちこちで打ち捨てられていた。彼らのお互いへの愛情に対する嫉妬心が息子の中で育まれ、それが心の歪みへと、残念さへと繁茂していったのだということも口には出されなかった。今日という日がもたらした痛みは簡単には消えるまい。二人にはそのことは分かっていた。しかしいずれにせよ起こるべくしておこったことなのだ。何故ならそれも、そこにあるものの一部なのだから。

バースデイ・ストーリーズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

バースデイ・ストーリーズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

所収。