今日の短編(56) 藤沢周平「うらなり与右衛門」

赤ん坊や子どもたちを見て、ここが自分に似ている、ここは妻に似ている、祖父に、祖母にと良く話をする。みんな能ある鷹は難とやらだとよいのだけれど。
藤沢周平「うらなり与右衛門」

「顔の長いのは、わしに似たのだ」
と父親の次郎兵衛が言った。
「しかし、わしのは馬づらでな。それに与之助のように生っちろくはない」
「色の白いのは母親似でしょうよ」
と母親は言った。
「わたくしも、子供のころからいくら日にあたっても日焼けしないたちでしたからな。それにしても、あのしゃくれ顔がねえ」
「やはり婿入りの障りになるかの」
「決して、よい方には数えられますまい」
と言って、母親はため息をついた。
「いったい、どなたに似たものでしょうね」
「さて、心おぼえはないが、ご先祖にああいう顔がいたかも知れんて」

たそがれ清兵衛 (新潮文庫)

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