今日の短編(57) トルーマン・カポーティ「銀の壜」

アップルシードとその妹がはじめて姿を現したのは、そのころだった。
彼は町では他所者だった。少なくとも彼の顔を見たことを覚えている人間は誰もいなかった。自分はインディアン・ブランチェズから一マイル離れたある農場に住んでいる、と彼はいった。また、母親は体重が七十四ポンドしかない、兄がひとりいて結婚式に行ってはヴァイオリン弾いて五十セント稼いでいる、といった。彼は、自分にはアップルシードという名前しかない、年は十二歳だ、と主張した。しかし、ミディという妹によれば彼は八歳だった。髪の毛は、まっすぐで、暗い黄色をしている。引き締まった、日に焼けた小さな顔で愁いをおびた緑色の目をしている。その目は、非常に賢そうで、大人びて見える。背は低く、弱々しく、緊張していた。彼はいつも同じ服装をしていた。赤いセーター、青いデニムの半ズボン、歩くたびにぽこぽこ音をたてる大人もののブーツ。

クリスマスを過ごすには小さな町がいちばんいい、とわたしは思う。町の人々は、誰よりもすばやくクリスマスの気分をつかみ、気分を変え、その魔力にとらえられて生き生きとしてくる。十二月の第一週までには、家々のドアにはリースが飾られ、どの店のウィンドウも、赤い紙のベルト、きらきら輝く雲母で作った雪片で輝いてくる。子どもたちは森に行き、香りの強い常緑樹を引きずって戻ってくる。女たちはすでに、忙しくフルーツケーキを焼いたり、ミンスミートの壜の封を切ったり、黒ぶどうや山ぶどうのワインの壜を開けたりしている。都庁舎前広場の大きな木には、ぴかぴかの銀の飾りとカラー電球がつけられている。電球は日が落ちるとつけられる。夕暮れ近くなると、長老派の教会から、一年に一度のお祭りのためにクリスマス・キャロルを練習している歌声が聞えてくる。町のいたるところでツバキの花が満開になる。

「そうね」彼女は、考えるように少し言葉を切ってからいった。「それにちょっとお祈りもしたわ」彼女は急に駆け出し、それからわたしのほうを振り向いていった。「それに、兄さんは、頭に幸福の帽子をかぶって生まれてきたのよ」

夜の樹 (新潮文庫)

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