今日の短編(38) レイモンド・カーヴァー「こういうのはどう?」

田舎暮らしに対する漠然とした憧れは、漠然としたまま胸のうちにしまっておいたほうが良いことが多い。毎日の生活を淡々と、ストイックなまでに繰り返していける人だけが享受できるものなのかもしれない。
それはさておき、それがなんなのか漠然としすぎてわからなくなっている気持ちや思いに、きちんとした言葉を、きちんとした形を与えてやるのは一仕事だ。彼女の場合ぐるっと周り続けることが必要だったように。
レイモンド・カーヴァー「こういうのはどう?」 (How About This ? by Raymond Carver)

「暖炉があると思っていたんだけどな」
「暖炉があるなんて私、ひとことだって言わなかったでしょう」
「なんかの加減でそう思い込んじゃったんだよな・・・・・・ところでコンセントがみあたらないね」と彼はちょっと間を置いて言った。それから「電気がないんだ!」と言った。
「トイレだってないわよ」と彼女は言った。

頼むから静かにしてくれ〈2〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

頼むから静かにしてくれ〈2〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

所収。