ナショナル・ストーリー・プロジェクト

ポール・オースターがラジオ番組の中で全米のリスナーに呼びかけて集まった4000の物語(それも全てが実際に起こった事実のみの物語だ。)から選りすぐった180の物語が収録された2分冊。短いものは数行、大半は2、3ページのどれも短い小文ながらそれぞれの作者の思いの強さに圧倒される。


動物、物、家族、スラップスティック、見知らぬ隣人、戦争、愛、死、夢、瞑想の10カテゴリに分けられているがとても一度に読むことは出来なかった。読み始めて半年、今もまだ1巻の半分に到達したかどうかという所だ。にわかには信じられない偶然や幸運、人生の悲哀や不幸、180人がそれぞれの物語を語る場を与えられ、「読んで欲しい」「聞いて欲しい」と全身の力で書いている。そんな数ページの物語を立て続けに読んでいると、雑踏の中で周りの話している内容が全て聞こえて来た時に感じるであろう感覚がしてくる。


混乱してしまわないようにちびりちびりと読み進めていくと今度は、過去を振り返って自分にはどんな物語があるだろうかと記憶をたぐり始めてしまう。それでなかなか読み進めることが出来ないでいる。なるほど、自分自身の物語をこうやって短い文章で積み重ねていくのは面白いだろうし、誰かに読んでもらえるのならば更に嬉しいものだろう。2巻の訳者あとがきで柴田元幸は『この本に収められた物語はむしろ、続けて一気に読む方がよいと思う。それによっていつしか、まえがきでオースターも言うとおり、「アメリカが物語を語る」のが聞こえてくるに違いない』と書いているが、僕は当分ちびりちびりと180人の物語を聞いていこうと思っている。
ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈1〉 (新潮文庫)ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈2〉 (新潮文庫)