今日の短編(71) 「カワウソ」

読まずに大事に取って置いたゲド戦記外伝所収の中篇。ロークの魔法学園が如何にして設立されたのか。「ゲド戦記」が始まる300年ほど昔の物語。ゲド戦記の世界では、全てのものが真の名前を持っている。普段は通り名を名乗り新の名は隠して生活している。人でもモノでもその真の名を知ると自由に操ることが出来る。「カワウソ・アジサシ・メドラ(真の名)」三つの名前を持つ男の生涯。

「様式にのっとらなければ、物事は正しい方向に進まない。自由はそこにしかないんだからね。」

「言葉は沈黙に 光は闇に 生は死の中にこそあるものなれ 飛翔せる鷹の虚空にこそ輝けるごとくに」ゲド戦記1巻「影との戦い」巻頭の言葉です。勧善懲悪、ばったばったと敵をなぎ倒すヒーローの登場する物語ばかり読んできた僕にとって、この言葉は、それまで気がつかなかった物事の捉え方、考え方を教えてくれたものでした。
きちんとした全うな生活ってある種の制限、規律の中にしかないというところまでは納得できるのですが、この「自由」がどこにあるのか、と言うのはとても難しい。

「わたしはひとりの人さえ救うことができませんでした。たったひとりの人さえ、自分を救ってくれた人さえ救うことはできなかったのです。わたしの知っていることは、その女を自由にするのにまったく役立ちませんでした。結局わたしは何も知らないのです。もしもみなさんが、どうしたら自由になれるか、ご存知でしたら、お願いです。ぜひとも教えてください!」

「わしはずっと考えてきた。ものをくっつけて直す技を持った連中の話をしたろう?わしらは誰のために働いとるのか、とな。わしにはあんまり選べなかったのかもしれん。が、なにはともあれ、わしはおまえさんにひどいことをしちまった。わしはずっと考えてたんだ、今度おまえさんにあうようなことがあったら、その時は、できれば、いいことをしようと。おたがい、ものさがしだもの、な?」

「遅すぎることは無い」「やりなおしは効く」「Never Too Late」ということを良く考えます。一回二回の失敗であきらめたり、もういいや、と思うのではなく、変わりたいと思ったら、やりなおしたい、と思ったら、その瞬間から人は変われる。そう思えると楽になることってたぶん人生の中でたくさんあると思うのです。

何度も何度も何度も読んだシリーズ。慣れ親しんだ世界観が一瞬でよみがえり、見知った場所を再び訪れているような感覚を味わう。再読したり、シリーズを読むときの大きな楽しみです。

ゲド戦記外伝

ゲド戦記外伝

所収