今日の短編(69) よしもとばなな「ともちゃんの幸せ」

じっと見ている。ただ、見ている。そしてちっぽけな存在として自分が在ることを何かが許してくれる。と思えると生きるのが楽になる。それが、いわゆる宗教というものなのか、なんとか学というものなのか。それは人それぞれなんだろうけれども。

いずれにしても神様は何もしてくれやしない。
でも、それは神と呼ぶにはあまりにちっぽけな力しか持たないまなざしが、いつでもともちゃんを見ていた。厚い情も涙も応援もなかったが、ただ透明に、ともちゃんを見て、ともちゃんが何か大切なものをこつこつと貯金していくのをじっと見ていた。

デッドエンドの思い出 (文春文庫)

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