今日の短編(62) 藤沢周平「だんまり弥助」

つい口が過ぎて後で悔やむことが多い。年を取れば分別がついて、そういうことも減るかと思っていたけれども、まったくそんなことはない。30いくつで分別がつくかどうかという問題もあるけれども。見栄を張ったり、自分を大きく見せようとしたり、誰かを小さく見せようとしたりして、口が過ぎる。少し時間が経って、本当のことがわかれば、見栄や虚勢を張ったんだとばれてしまうとわかってはいるのだけれど。等身大の自分でいられるのが一番なのになぁと良く思う。

美根の葬儀が終わったころから、弥助は少しずつ寡黙になった。自分を罰するといった強い意味があったわけではない。だた胸の中に世の中から一歩身を引く気分が巣くった。すると言葉はおのずからすくなくなったのである。弥助の胸の中で、悔恨と、無口が次第に釣合って行った。その証拠に、無口のために人に無視されたり変わり者扱いされると、弥助は人知れず気持ちが安らぐのを感じた。これでいいのだと思った。

たそがれ清兵衛 (新潮文庫)

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