土門拳「走る仏像」

無我夢中で一枚シャッターを切った。たった一枚。そしてもう一枚と思って、レリーズを握った私は、シャッターを切るのをやめた。さっきまで金色にかがやいていた茜雲は、どす黒い紫色になり、鳳凰堂そのものも闇の中に姿を消していたからである。それは全くどこかへ逃げ去ったとでもいうほかない早さで、すがたを消していた。

高校生のための文章読本

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