H・ファーブル「短刀の三刺し」

  • H・ファーブル「短刀の三刺し」 高校生のための文章読本 より

蜂はこおろぎの胴の先に出ている糸を一本大顎でつかみ、前肢で相手の太い後肢をじたばたしないように抑える。同時に中肢で敗者の太息をついている横腹をしめつけ、後肢を二本の梃子のように顔に当てて突っぱり、頸の継ぎ目を広く開く。あなばちはそのとき胴を曲げてまっすぐに上向きに立てる。こおろぎの大顎の前にはその反りしか見えないので咬めない。いよいよ毒塗りの短剣はまずいけにえの頸にすぶりと刺される。これは感動せずには見ていられない。二回目には胸部の二前体節の継ぎ目に、次いでなお胴にと。殺害はこの話をしているよりずっと短い時間にすっかり済んでしまうのだ。

高校生のための文章読本

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