今日の短編(51) トルーマン・カポーティ「無頭の鷹」

やがて彼は緑色のレインコートを着た女の子を見つけ出した。五十七丁目と三番街の角に立っている。そこに立って煙草を吸っている。何か歌を口ずさんでいる。レインコートは透明で、黒っぽいスラックスをはいている。素足でかかとの低いサンダルをはき、男ものの白いシャツを着ている。髪は淡い黄褐色で、男の子のように短く切っている。

無造作に短く切った前髪が額に垂れている。彼女の顔は、ほっそりして、頬がこけ、少年のような、どこか詩的な感じさえしたが、その印象は、男のような髪型でいっそう強められていた。中世の若者たちを描いた絵のなかにときおり見られる種類の顔だ。

人の心をとらえるような柔らかさが彼女のなかに生まれていた。少し身体に丸みが出て、ふつうの女と比べて風変わりなところもすくなくなっている。ヴィンセントはシェリーのグラスを差し出した。それを唇につける彼女の優雅なしぐさを見て彼はうれしくなった。彼女は彼のパイル地のローブを着ている。少し長すぎる。裸足で、足を横に出してソファに坐っている。

夜の樹 (新潮文庫)

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