028 「どんぐり姉妹」よしもとばなな に思う
それに対して、このところ妙に内省的な時期に入り家にこもりがちになっていた私は、姉が恋をしはじめたとだんに家の中の空気が全く動かなくなったので、はじめて自分がそうとう静かな状態にあることを知った。
何日も外に出ていないと、頭の中の世界のほうが実際の世界よりも少しずつ大きくなってくる。気づくと思い込みの度合いがそうとうまずいことになっていて驚いてしまう。
そうしたらちょっとだけ外に出て調整する、そのくり返し。
期末考査も終わり、採点も答案返却も終わり、成績関連の仕事も終わり、後は通知表を渡せば2学期も終わりという頃に出会った作品。久しぶりに本を読もうかというタイミングでぽっと目に飛び込んできた。最初の数ページをぱらぱらと読んでいて今回引用した部分を読んで「あっ」と思った。僕の中で今年、時間が止まってしまっていた部分ってあったな、と。
今は身を低く、力をためて。そう思っていないと、やられてしまう。だれに攻撃されるでもない、自分の中の自分がずれてくるのだ。自分の中の自分がずれてくると、実際に会う人たちにその違和感が伝わる。そして人々の対応もおかしくなってくる。
そこで自分が変だと思ったら、もっとおかしくなる。
自分は身を低くしているだけなのだ、今はそういう時間なのだ。
必死でがむしゃらに仕事に向き合っていた部分があった反面、すっかり忘れてないがしろにされていた部分もあった。そこはとてもとても個人的でその価値は自分にしか分からない部分なんだと思う。そこを考える時間がなかったからこそ気持ちはあまり外へ向かわず内へ内へ向かっていたのかもしれない。
今年は、色々な意味で「身を低く、力をためていた時間」だったのだろう。そう考えるようになったら少し気持ちが外側を向くようになってきた気がする。じんわり沁みてくる、よしもとばななの文章は僕はとても好きだ。
- 作者: よしもとばなな
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