重力ピエロ

重力ピエロ (新潮文庫)

重力ピエロ (新潮文庫)

「兄貴、むちゃくちゃだよ」春が顔をゆがませた。
「そうだ、このむちゃくちゃがおまえの兄なんだ」
できる限り、軽々しく言った。春が以前、病室で洩らした言葉が、頭からはなれない。「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」
まさに今がそうだった。ピエロは重力を忘れさせるために、メイクをし、玉に乗り、空中ブランコで優雅に空を飛び、時には不恰好に転ぶ。何かを忘れさせるためにだ。

本の紹介を国語総合の時間に続けているけれど、そうするとこんな本を読んだ、これがおもしろかった、と彼らも逆に教えてくれる。この井坂幸太郎さんもそうやって出会った一人。

登場人物の家族が置かれた状況があまりにシリアスに過ぎないかという思いを最初抱いたけれども、その、いわば過剰な重さも、このタイトルならではなのか、と最後は納得できる。

「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」

個々だけ抜き出すと、なんてことない文章なのかもしれない。でもこのセリフにいたるまでの道のりを作品とともに過ごしていると、この一言がじいんとしみる。

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