I・ディネーセン「イグアナ」

物凄くステキで輝いてみえていたものが、手に入れるとありきたりのなんてことないものに見えてしまうのは何故だろう。

  • I・ディネーセン「イグアナ」 高校生のための文章読本より

私はイグアナの死体が横たわる石に向かって歩いていった。ほんの何歩といかないうちに、イグアナは色あせて蒼ざめ、あのきらめくようなさまざまの色彩は、最後の長いため息とともに体から抜け去ってしまったかと見えた。イグアナを手にすると、それはもうコンクリートのかたまりのように鈍い灰色でしかなかった。すべての輝きと彩りとを放射していたのは、この動物の内に脈うつ生きいきした激しい血潮だった。生命の炎が消され、魂が飛び去ったいま、イグアナはただの砂袋にひとしい。

高校生のための文章読本

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