吉行淳之介「蠅」

性を意識する時に感じた自分の肉体が自分でないような、違和感と拒絶感。同様に他者の肉体も同じように遠く受け入れがたいものと感じられる。

その瞬間、少女はよろけて、半歩遅れた。立ち直ったとき、目の前に男の制服の背中があった。
その広がりに、少女は異様なものを見た。
胴体の下半分があおみどり色に光っている蠅が、背中一面にびっしり貼りついていた。
その色は、夜光塗料を塗りつけたようだ。外皮はつるつるしているが、そのくせ中身に詰まっている粘った液体がその一匹一匹に滲み出ているようにみえた。

高校生のための文章読本

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