今日の短編(49) トルーマン・カポーティ「夢を売る女」

全てを欲しがる欲望は何を求めているのか判らない焦燥感がもたらすもの。
時と夢を燃料にメリーゴーランドのようにぐるぐるまわってどこにも行かず。
寒くて、淋しくて、やるせない。

「なぜってそのとおりだからマスター・ミザリーって呼ぶのさ。不幸という名のご主人様だ。君は他の名前で呼ぶかもしれないが、いずれにせよ、あの男はあの男だ。きみにもあいつの正体がわかったろ。母親が子どもにあいつのことを話すじゃないか。木のうろのなかに住んでいて、夜遅くなると煙突を降りてくる。墓場に住んでいる。屋根裏を歩く足音が聞える。あのろくでなしは、泥棒、おどし屋さ。あいつはきみのもっているものをみんな奪い取ってしまう。最後にはきみの手もとには何も残らない。たったひとつの夢さえもね。畜生!」

燃えるようなガラスの目をした石膏の女の子が自転車に乗って、猛烈なスピードでペダルを踏んでいる。車輪のスポークが、催眠術をかけられたようにまわっているにも関わらず、もちろん自転車はまったく動かない。こんなに一生懸命こいでいるのにこの可哀そうな女の子はどこにもいけない。それは哀れにも人生そのものだった。

「いちばん星にどんな願いごとをする?」
「もうひとつ別の星を見たい」彼女は言った。「いつも、最低、そのことだけは思うの」

夜の樹 (新潮文庫)

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