今日の短編(47) トルーマン・カポーティ「夜の樹」

「闇にまぎれて生きる おれたちゃ・・・なのさ」なんて歌が昔あった。少女が出会ってしまった二人連れは、普通だったら交差しない向こう側に生きている人々だと思ったに違いない。しかし我々が思っているよりずっと近くに彼らは住んでいる。

スティーヴン・キングの作品で理屈が通じていそうで通じないコミュニケーションが断絶した恐怖を書いた作品がいくつもあるけれども、彼のその恐怖は、結構ホントにモノノケだったのよ。という事がままある。

トルーマン・カポーティ「夜の樹」( A Tree of Night by Truman Capote )

女は、それを聞いてしばらく考えたあと、結論を出すようにいった。「そんなところで学ぶものなんかあるの? いわせてもらうけどね、お嬢さん、私はこれでも学があるのよ、カレッジなんか一度も見たことないけどね」

女はほとんど目にもとまらぬ素早さで、女の子の手首をつかんだ。「嘘はいけないことだってママに教わらなかったの?」女はあたりに聞こえるように呟いた。ラヴェンダー色の帽子が頭からころげ落ちたが、拾おうともしない。舌をさっと出し、唇をなめた。ケイが立ち上がると、彼女は手首を握る手にますます力をこめた。「さあ、坐るのよ・・・お嬢さん・・・友だちなんていないんだろ・・・そう、友だちは私たちだけじゃないか。絶対にあんたのことを放さないからね」

夜の樹 (新潮文庫)

夜の樹 (新潮文庫)

 所収