今日の短編(36) レイモンド・カーヴァー「嘘つき」

それは結構、根本的な問題ななんじゃないでしょうか。ある秋の夕暮れ、家の隣の、当時はまだ原っぱだった背の高い草むらで赤とんぼを捕まえたことがあった。学校で友達にきいたように胴体にタコ糸を結んで飛ばしたいと思ったのだけれど上手にできない。何度ためしても上手に結べないのだ。嫌になってしまった僕は、セロハンテープでトンボにタコ糸をくっつけた。硬い粘着質な物体で体を覆われたトンボが飛べるはずもない。セロハンテープも上手にはがせない。どうしようという気持ちとなんでうまくいかないんだという気持ちになった僕は、どうしようもなく、そのセロハンテープまみれのトンボをその原っぱに捨てて家に帰った。そんな古い記憶が甦ってきた。
レイモンド・カーヴァー「うそつき」 (Why , Honey ? by Raymond Carver)

あの子は、時折感情を爆発させることと、本当のことを口にできないことを別にすれば、良い子供でした。

頼むから静かにしてくれ〈2〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

頼むから静かにしてくれ〈2〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

所収。