今日の短編(34) 吉本ばなな「窓の外」

荒々しい、南米のむき出しの生命みたいなものを、文章の向こう側に感じた。泥色の濁流がしぶきを上げている写真が挿入されているのが大きいのかもしれない。イグアスの滝といえば、何年か前村上龍の「パラグアイのオムライス」を読んだ。あれも印象深い短編だった。この作品には自然の荒々しさを感じはするものの、心に残るのは引用したような、淡々とした気持ちが描かれたところだったりする。
吉本ばなな「窓の外」

幸福な時に幸福と感じることはめったにないのに、その瞬間、私は幸福だと感じた。肉体と、時刻と、状況が全部上手につり合っている時、人はそう感じるのだろう。

私は、本当にぶらぶらしたいがために夕暮れの街に出てくる人たちとその表情を久しぶりに見た気がした。東京ではなんとなく、みんなが目的を持って動いているし、そうでない人はすっかり休んでしまっている。そうではなくて、なんとなくひまだからぶらぶらしに行こう、という感じの顔つきには独特な、人をなごませる感じがある。時間がゴムみたいに、のんびりとのびている感じた。

不倫と南米―世界の旅〈3〉 (幻冬舎文庫)

不倫と南米―世界の旅〈3〉 (幻冬舎文庫)

所収。