今日の短編(30) 吉本ばなな「プラタナス」

それぞれが思い浮かべる「あの」風景。
吉本ばななプラタナス

もはやあのホテルの前の道は、私にとってこの街のもっとも大きな思い出の風景だった。風が吹き、青空の色を背景に、あるいは真っ暗い夜の漆黒の闇を彩って、だだっ広いまっすぐな道一面に手のひらみたいに大きな枯葉が狂ったように舞うあの光景は、頭を混乱させた。それを見ているとなにも考えられなくなった。あちこちに葉が舞っていることだけ、それらが目の前の世界中を一瞬埋めつくすのを見つめることしかできなかった。

不倫と南米―世界の旅〈3〉 (幻冬舎文庫)

不倫と南米―世界の旅〈3〉 (幻冬舎文庫)

所収。