今日の短編(8) イーサン・ケイニン「慈愛の天使、怒りの天使」
誕生日に起きたちょっとした?アクシデント。おばあちゃん、お茶目です。
イーサン・ケイニン「慈愛の天使、怒りの天使」(ANGEL OF MERCY, ANGEL OF WRATH by Ethan Canin)
エリスナー・ブラックの七十一歳の誕生日に、鳥の群れが窓から台所に飛び込んできた。それは彼女がこの四十年のあいだ毎朝きまて開けてきた窓だった。とくにこれという理由もなく前触れもなく、鳥たちはそれまでとまっていたヴェルデン・ストリートの角の銀杏の木から、一斉にうちの中に飛び込んできた。鳥たちはルーズベルト大統領の時代からずっと毎日、そこにとまりつづけてきたというのに。
彼女は身を起こし、手紙を点検した。手紙の文字は行の終わりの方になるとちまちまと小さくなっていた。それで彼女は紙をわきにやり、新しい紙を取り出した。その瞬間に鳥が舞い降りてきて、テーブルの端っこにとまった。エリナーはさっと後ろを向いて、椅子から立ち上がった。「ああ」と彼女は言って、心臓に手をやった。「そうだったねえ」
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/01
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