今日の短編(7) デイヴィッド・フォスター・ウォレス「永遠に頭上に」

世界が、視野が、自分自身が広がっていく瞬間。きっと、こんな精神的脱皮を何度も繰り返して、人は子供から遠くなっていくのでしょう。
デイヴィッド・フォスター・ウォレス「永遠に頭上に」(FOREVER OVERHEAD by David Foster Wallace)

誕生日おめでとう。君の十三回目の誕生日は大事なものだ。それはたぶん君が最初に世間とかかわる日になる。君の十三回目の誕生日は、いくつかの重要なことが君の身におこりつつあると人々が認識するための好機なのだ。

これはちょっと考えてみなくては、と君は心にとめる。結局のところ、頭を空っぽにしておいて、おっかないことをやってしまうのは、悪くないことかもしれない。でも「頭を空っぽにすること」自体がおっかないことだったら、そう簡単にはいかない。考えないこと自体が悪い結果を招いたとしたら、それはまずい。ここではこれまでのところ、間違いが盲目的に積み上げられてきた。わざとらしい退屈そうな素振り、体重、細い横棒、痛む足、梯子の横棒のあいだの切り取られた空間。そういったいくつものものごとが、時間のかかる消滅の中で初めてひとつに混じり合うのだ。梯子の上で吹いている風も、誰にも予想のつかないことだ。事情が変わってくるときには、君は考えるチャンスを与えられるべきだ。そうすることが義務づけられるべきだ。

バースデイ・ストーリーズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

バースデイ・ストーリーズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

所収。