今日の短編(5) リンダ・セクソン「皮膚のない皇帝」

ロバートもかわいらしいけれども、三人のおばあさんたちもまたかわいらしい。
リンダ・セクソン「皮膚のない皇帝」(TURNING by Lynda Sexson)

三人の老婦人が、その長い首に宝石をエレガントに光らせ、お互いの手を取りあって、タクシーからよろよろと降りてきた。婦人たちはカールした白髪の頭をこくこくと肯くように振りながら、家のほうに向かった。カーテンのうしろでは、小さな少年が期待に胸をふくらませつつその光景をじっと見守っていた。それはまるで映画の中のシーンみたいだった。三羽の白鳥が、体を上下に揺すりながら青い湖上をするすると滑ってくるのだが、映写機の調子が途中で悪くなって、フィナーレの部分のフィルムが機械に絡まってもつれてしまったのだ。その優雅な婦人たちの足が悪いわけじゃなくて、ただ単に映像の映し方に問題があるだけ、というふうにも見えた。

「それはね」とロバートは言った。「だからねオリヴィアおばさん、謎というのはこういうことなんだよ。動物というのは素敵な皮膚を持っているし、人は尻尾を持ちたいと思っているんだっていうこと」
「実にそのとおり」とオリヴィアは言った。

バースデイ・ストーリーズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

バースデイ・ストーリーズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

所収。