2007-01-31から1日間の記事一覧

今日の短編(51) トルーマン・カポーティ「無頭の鷹」

トルーマン・カポーティ「無頭の鷹」( The Headless Hawk by Truman Capote ) やがて彼は緑色のレインコートを着た女の子を見つけ出した。五十七丁目と三番街の角に立っている。そこに立って煙草を吸っている。何か歌を口ずさんでいる。レインコートは透明で…

今日の短編(50) トルーマン・カポーティ「最後の扉を閉めて」

逃げれば逃げるほど、敵は強く、大きく、恐ろしく見えるものだ。 自分に厳しくあることは、難しい。人間易きに流れるのは容易で、そこから流れをさかのぼっていくのは本当に困難だ。自分に優しく、人に厳しく生きていると、いずれ誰からも相手をされなくなる…

(手帳4)もう一人の自分

(手帳4)もう一人の自分 「高校生のための文章読本」より 「もう一人の自分」を見つめようとする時、わたしたちはある種のいらだちを覚える。それは自分の姿や声をじかに見たり聞いたりすることができない時のいらだちに似ている。 では、わたしたちが、青…

大岡昇平「手」

大岡昇平「手」「高校生のための文章読本」より この物体は「食べてもいいよ。」といった魂とは、別のものである。 私はまず死体を蔽った蛭を除けることから始めた。上膊部の緑色の皮膚(この時、私が彼に「許された」部分から始めたところに、私の感傷の名…

吉原幸子「人形嫌い」

吉原幸子「人形嫌い」「高校生のための文章読本」より 幼いころから、私は人形遊びをしたことがない。動物ならまだしも、あの女の子の姿をした人形を女の子がもったいらしいふけた表情で抱いている光景は、何かグロテスクで近寄難かった。 人形を可愛がるほ…

魯迅「傷逝」

魯迅「傷逝」 「高校生のための文章読本」より あのとき私が、どんなやり方で、私の純粋にして熱烈な愛情を彼女に伝えたものか、今はもう覚えていない。今どころか、あのときの直後にはもうボンヤリしてしまって、夜になって思い出そうとしても、いくらかの…

金子光晴「日本人の悲劇」

金子光晴「日本人の悲劇」 「高校生のための文章読本」より 僕のながい生涯で、この瞬間ほどはっきりと日本人をみたことはなかったのです。人間に対するいやらしさが、日本人のいやらしさの限りとして、同時に浮かびあがり、しられたくないあさましい記憶が…

三善晃「もしかして」

三善晃「もしかして」 「高校生のための文章読本」より このときの「もしか」は反射的でなかった。「もしか」の息のつまりそうな苦しさは、とても長く続いたように思う。だが私は、いつ、どうして桶を手にしたか、覚えていない。ただ、祖母の顔にかぶせた桶…